みなも泳ぐ水鳥も

観劇と他の趣味

2023「眠くなっちゃった」

管理が全然うまくいっていないディストピアのお話。
完全管理社会よりリアリティがあって、まるでどこかの国みたいだなと思った。

いつもボリュームがあって疲弊するんだけど、美しくて哀しいラストシーンで会場が静寂に包まれる瞬間はしびれる。
壮絶な人生の記憶がすべて消えたあとに、リュリュから愛されていることだけ覚えるんだな。そこにかつて愛していた人たちがいなくなってしまっているのが哀しいけど。

ヨルコ、初め出てきたときはクズだけどたまに優しいので妻は離れられない系の男ね~と思って見てたら、全く同じ文章を全く同じトーンで繰り返すところで違和感が出てくる。そのあとどんどん壊れたラジカセみたいになっていくので、やりようによってはもっとオモシロになるんだろうけど、絶妙なバランスでコントロールされているんだろうな。その演出も実際に出力できるのも好き。
ロボットの身体表現もすごく好きだった。お茶入れずに帰ってきて、ノーラたちが喋ってる横で上半身だけガガッガガッって回すのとか、火花が出て壊れたり回収員に頭撃たれて直角のままバタンと倒れるところ、機械の体だった。
サーカス団長も道化たちと一緒にパフォーマンスしていたし、身体表現のプロがいる作品でここまで役割を担っているのが見えて幸せでした。

団長も優しくてずるい良いキャラクターだったな。匿ってくれるし裏切ったりするわけじゃないけど最後は置いていってしまうし、そもそもノーラにやりたくない仕事させてたのは団長なわけだし。

ケラさんはメッセージを直接言わせるような作風ではないと思っているけど、現実を組み込んだような描写のひとつに「娯楽は必要でしょう」って言う興行主と生活でそれどころではない苦しい市民が入ってくるの、苦しいな。


マイベストは野間口ナンダ。お仕事と人間味のバランスが好き。
ゴーガに対してもどういう感情を持っているのかわからないけど、少なくとも何か特別ではあったんだろうなと感じるラスト。
あの作品世界であの立ち位置のキャラで、あの力の抜け方が野間口さんだなあ。

門番-バンカーベックも好きだった。壊れている世界を容認して、実際の立場がどうであれ支配者側に立って人生をドライブしようとする人。今の世界にたくさん存在する人。あの生き方を選んでも、決して平穏に生き続けられるわけではないのが、まさに現実だなと思った。
あの彼だけが世界を止めて第4の壁を越えて、現実の我々に語りかける役割なのが何となくわかる。

山内さんは毎回精神が分裂しそうな対極の2役をやっていた。ゴーガの暴力表現の圧倒的な美しさ。

リュリュ妻が本当に妻なのびっくりした。一回気づいたら、「愛する妻の声を聴きながら今はノーラといる」構造にもうひとつ入り組んだ気持ちを抱いてしまうところはあったけど、本当にあたたかくて素敵だった。