みなも泳ぐ水鳥も

観劇と他の趣味

2023「ジェーン・エア」

幕がなくて開演前から荒野のセットがむきだしの状態。オケピにオーボエの方だけ先に入っていて、たまにリードで鳥のさえずり入れてて素敵だった。

前半はすごく静かで緻密で演劇的な雰囲気で展開されるので、ロチェスター卿の登場が鮮烈。ジェーンの中で彼の解像度があがっていくのに合わせて、可愛げとかダメさが出てくる感じがした。

初日、明転してカテコ始まるときに神田さんが小さくガッツポーズして芳雄さんと春風さんが握手してたのが印象的だった。序列なく真ん中にぐちゃって集まるの今回のカンパニーって感じで好き。

子役さんが最初から最後まですさまじい仕事量で、もちろん他の作品でもそうなんだけど、完全にカンパニーの一員だった。冒頭しばらくヤングジェーンのの役割が大きすぎるし展開がえぐいので負担では……って思ってたんだけど、アデレードでバランス取る感じなのかな。引きで見るとヤングジェーンを囲んで舞台上の全員で合唱してる場面がいくつかあって、起きている事実よりは優しく寄り添ってくれてるように見えた。

どちらの役をやっていても、萌音ジェーン/ヘレンは心の底から神が救いで、初めから周りの大人とは違うところを見ている。屋比久ジェーン/ヘレンは信仰によってなんとかこのクソみたいな世界を生き抜いてる。屋比久ヘレンはジェーンより早くそのように生きることを知った子って感じ。

長年の刷り込みもあって、萌音ジェーンだと理屈じゃなくこのふたりはそうなるだろうなって思っちゃうんだよな。彼を救いたいと思ってしまったから、に尽きる。

卿が膝を折ってジェーンにすがりつくシーンで高さがほぼ同じになるの好きだった。萌音ヘレンはヤングジェーンとほぼおんなじ大きさだし、屋比久ジェーンはロチェスターの中にひとり入れそう。
萌音ジェーンは見慣れのパワーで何となく見れてしまうんだけど、屋比久ジェーンと並ぶとエドワードが何もかもふたまわりくらいでかくて、そんなバランスで大きな秘密を隠したまますがりついてる姿がちょっと怖さすらあった。

 

この人何……?からなんなんだこいつ!!!を経て、全部許してしまうのが芳雄ロチェスター。変わった出会い方をして不思議な語り口で心乱される年上の男性だったのに、求婚で膝立ちですがりつくようになるの、好きなダメ男すぎる。恵まれた家柄に生まれながら愛されてこなかったゆえに、愛し方が分からず愛されている自信が持てず、権力勾配のある年下の女性にけっこうなことをしでかす男たち、ジョンのラインナップ。

ボヤのあとの「なんだ、行くのか?」の言い方が人付き合い上手くなさそうな感じが出てて好き。このあと送り出して部屋で突っ伏したり泣きながら寝っ転がったりしているの、過去の悪夢に引き戻されそうになった辛さと、救ってくれる人を見つけたかもしれない嬉しさと、上手く伝えられないもどかしさが同時に溢れてきたのかな。

2幕冒頭手当てしたあとのジェーンの部屋での会話がめちゃくちゃ好き。あんなに優位に立って会話進めてるシーン珍しい。先のこと思うとくっそ〜こいつ!!!ってなるんだけど、好意を持ってる年上の相手にあれされたら心乱されるよ。

アデール母の曲の音域が好き。今作女声っぽい歌唱がいくつかあって新鮮だった。

「私の名前を呼んでくれ」も「君の望むどこへでもいいから連れ出してくれ」も切実な心の叫びだよなあ。過去にしばられて進めなくなったところにすごく波長の合う人が現れて、少なからずお互いに良く思っている状況となると、強く糾弾はできない。自分が大人になればなるほど良く生きられない人が刺さる。

ただ、エドワードひとりで背負うべきものではないけど、決して恵まれない人生を送ってきた年下の女の子に寄りかかるにはエドワードは大人すぎる。相手が魂の片割れでよかったね。

自分の不誠実で一度彼女を失い、命を張って過去を救おうとしたから彼女へ声が届いたっていう話かなと改めて思った。「俺のジェーン」「心を俺にくれ」「俺のものだと信じさせて」って言い続けていたエドワードが、再会したときに「仲間はずれにされてないか、ドブに落ちて死んではいないか」ってただ身を案じてた言葉が出てくるの、彼の成長というか考え方の変化が感じられて好き。

ラスト目を開いた瞬間に溜まっていた涙が流れ出すのを見た。

 

ここしばらく春風さん拝見するたびに本当に好きな役だったんだけど今回もすごく好きだった。最後ミセスフェアファックスがハグするところが涙腺決壊ポイントでした。

中井さんの歌声の美しさに打ちのめされた。シンジュンは別に悪い人ではなく思想が違う人なんだろうけど、歌うますぎるゆえにちょっと怖い。

 

妻が装置でしかないのはちょっと寂しかったかな。金のために知らない妻をあてがわれたエドワードと同じように、父に結婚させられたのであろう彼女の背景をもう少し見たかった。

過去の説明で何となく「父より兄の方が先なんだ」って思ってたんだけど、その順番だからエドワードの元に大金が転がり込んでるのか。自分を売り飛ばした権力者の金を得るのがせめてもの救いなのかどうか。

リード家は決していい環境ではなかったけど、結果的に教育を受けられたことがその後の人生につながっているの難しい話だ。
ミススキャチャードがミセスリードみたいに意地悪でやってるわけじゃなくて己の信仰の結果であり生徒を思っていないわけではないところ複雑で好み。出発を止めるのだって彼女の価値観では良かれと思ってなのだ。

「結婚するって!!」ってざわざわしてるときにベッシィがグレースの肩ぶんぶんしに行ってるの可愛い。壁を感じる人だけどそれなりに仲良くやってそうで良かった。

打撃を受けたあとジェーンに慰められてちょっといい感じになって手握ろうとしたときにロバート入ってきてぱっと離れるとこ好き。あの家の使用人たち、主人が家庭教師のこと好きそうなのなんとなくわかってるよね。気まずかろう。

ロバート、アデールの妖精ごっこのとき主人が見るからにイラついてるの気づかずに笑顔で説明してるの可愛い。ミセスフェアファックスはエドワード出てきたときから小声で注意してるのに。

初めは老栃が折れたら呪いが、とか言ってるの冗談半分みたいな感じなのに、いざ本当に折れたときに「え、ほんとにやばいのでは……」って表情になる使用人たち好き。ランドマークってそういうところあるよね。