みなも泳ぐ水鳥も

観劇と他の趣味

2023-2024「ベートーヴェン」

信じられないような豪華メンバーの日本初演

韓国初演から賛否あったストーリー部分については、回数を重ねるごとに冷静になってしまって、こいつら勝手だなと思いつつも、歌と演出とお芝居で楽しんだ作品でした。

 

心に傷を負ったまま大人になってしまった、陰気で人付き合いの苦手な男がなんでこんなに似合うんでしょうね。トニの家に来たときのコミュニケーション苦手っぷりが最高だった。お花さまとのちゃんとしたラブストーリーのシーンが新鮮で、1幕の間はずっとにやにやしながら見ていた。

1幕ラストの演出がめちゃくちゃかっこいい。どこを切り取っても絵になる舞台全体を使った演出。今回全編を通して風がすごく印象的だった。舞台上に風が吹くってあんまり見たことなかったかもしれない。

ベットに仰向けに寝っ転がりながらメイン曲歌唱するシーン、何なら普通の体勢より声でかくてまじで何事なんだと思いました。真上向いてるから顔まったく見えないのに声だけ聞こえる体験をした。

2幕花火のシーンで、過去の傷を慰められて子供みたいな顔で泣くルートヴィヒ好き。

2幕ラストの絶望したトニを見て別れを決める、その心の動きが見える表情の変化に胸が締め付けられる。芳雄さんの好きなお芝居です。

2幕終盤の演出もかっこよくて、砦の井上芳雄を幻視した。芳雄アンジョ。乗ってるのピアノだけど。

 

個人的にはラブストーリーそのものよりも、ルートヴィヒの成長のお話の方が軸だと思った。人嫌いで尊大な天才音楽家が聴力を失っていく中、愛を知って人のために手放すことを覚えた結果、自由を否定され愛を否定されたもう一人の自分である弟を認めて心を通わせることができたお話。

かつて保護者に尊重されなかった子供であったルートヴィヒが、弟に対して高圧的で自主性を認めない。周りの噂だけでカスパールの愛する人を否定したルートヴィヒが、外聞の悪い人妻との愛に身をささげる。ルートヴィヒとカスパールの対比が綺麗だったので、もう少し弟との物語も見たかった気持ちはあったな。

海宝パールは内気で、兄のこと怖いと思っている感じ。だから断絶のきっかけになったヨハンナのことは本当に大切だったんだろうし、兄と離れて自分に自信が持てるようになったんだと思った。和解のシーンで、兄の目を見て口を指しながら大きく喋るカスパールに泣いた。

小野田パールはおっとりしていて、どっちが保護者だと思うくらいの包容力。最後の和解もぼろぼろの兄をがっしり受け止める優しい男。

 

M!のアマデたる音楽の化身ゴースト。トートダンサーと違って個々に若干の意思がありそうなとこが好き。コンサート中止後の曲で、順番に出てきて一番端の子にお前いけよってけしかけてソロダンスに入る流れがめちゃくちゃかっこいい。ゴーストに囲まれて音楽書いてるときの、どこかに魂が飛んでるようなルートヴィヒの薄ら笑いがすさまじい。

 

ベッティーナはso cuteだった。ルートヴィヒ初訪問ではしゃぐミーハー女子可愛い。2幕は裏切りっていうけど、元は兄に浮気やめるよう忠告しているし、義姉のこと好きだから家族でい続けたかったんじゃないかな。

フランツはサカケン先輩の回のみ。ヒール振る舞いが堂に入っている。お花さまのフランツ……の威力がありすぎるのでそれを無下にするフランツ、絶許。

と思いつつ、まあもちろん良い人ではないけど、不倫発覚後の彼は間違ったことも言っていないというか、ベッティーナを見張りにつけるって言われて「馬鹿にしないで!」って啖呵を切ったその足でルートヴィヒに会いに行くトニもなかなかなので何ともですね。もう少しキャラクターの多面的なエピソードが欲しいところだった。

弁護士とのカスのThe Other Sideみたいな曲好き。

 

御園座で一足先に大楽を迎えたマクセみはるちゃんのご挨拶回見られた。
最後カテコで出てきただけでちいちゃくてメロメロ。顔合わせから本当に可愛くって!って言うお花様と「自分でも可愛さの自覚はあるの?」って聞く悪い座長。しっかりご挨拶されていてさすがでした。

 

パンフによると2022年2月にキャストが全く決まってない状態でスタートした企画らしいので、何があったらこのメンバーが集まるんだよと思うんだけど、おかげさまであまり見ないメンバーでのお芝居が見られたのはありがたい。

あのお花さまと芳雄さんが毎公演へとへとになりながら演じていて、本当に主演ふたりの負荷が大きい作品なんだろうなと思った。兵庫大楽で芳雄さんがまっすぐ感謝を伝えていたのが本当に印象的だった。

せっかくクンリーの新作で、このメンバーで立ち上げたんだから、ストーリーをブラッシュアップして再演続いてほしいなと思ってます。