みなも泳ぐ水鳥も

観劇と他の趣味

2023「スリルミー」

■松也私×廣瀬彼

見るたびに印象が変わっていく、噛み応えのあるペアでした。
初見時に衝撃で足を取られ、気づけばそこそこ追っていた。


@シアターウエス

廣瀬彼なにごと???? こんなに彼ばっかり見るの初めてくらい彼から目が離せなかった。
頭からずっと心が抜け落ちてるみたいな喋り方、かと思えば子供みたいな受け応えをすることもある。あとかなり明確に前方席の客の目を見ている場面があって、私も冒頭で煙草吸う彼と目が合い続けていた。めちゃくちゃ怖いし動揺した。

でもやっぱりあの彼にたくさん友達いる??あんな怖い人なかなか近づきがたくない??ずっと心壊れてる顔してるけど、少しだけ表情が緩むのは火と刃物を見てるとき、あと私が彼に執着を見せているとき。

スポーツカーも、たぶん彼が想定してるのと違って、最初からずっと怖い。ほぼ脅しだよ、その子供用と思しき声色がむしろ怖さを増長させてるよ。

松也私は2014CDのじめじめべたべたした印象と違って、優秀でおとなしい青年って感じ。いや、レイくんあいつと仲良いの?まじで?って思ってる同級生の人格出てきた。

ラストは愛よりどちらかというとバトルの勝利って感じ。

事前に感想で散見していたけど、わたしも「廣瀬彼 ハンマー」で検索した。

拘置所に連れてこられた彼が入り口で肩どんって押されてよろけるの、めちゃくちゃリアル。総じてマイムがうまくて美しい。あと最後後ろ向きに階段上る彼も美しい。

松也私の倒れ方も好きだった。冒頭私をドイツ語で押しのけるとこで膝曲げずにゆっくり倒れたり、「うちは最近親父がケチで」で押されて階段に座り込むとか。

カテコ5回目退場時に廣瀬さんがセットの梁ぽんぽんってやりながらかがんでくぐっていったのきゅんだった。高身長がちな彼たちあそこ危ないよね。


@サンケイホールブリーゼ

初見時よりもかなり人間だった。もちろんお芝居を変えているところもあるだろうけど、スリルミーという作品が、白い絵を見て何色が見えるか人によってもタイミングによっても違うみたいなところあるよね。

今日の廣瀬彼、大人になり損ねた青年っていう印象。時々飛び出す不釣り合いに幼い言葉遣いだったり時が止まってる部分がある感じがした。
私のこと好きかはわかんないけど、私が自分のこと好きなのは好きで、私が自分に執着を見せてるときに表情が動く。

元々家庭環境でギリギリで生きてて、私との不健全な関係でバランス取ってたのに、契約とかいうしばりを自分で持ち出して私の望みも叶えなきゃいけなくなってバランスが崩れたように見えた。着衣乱れたまましばらく止まっているのが苦しい。5分心を飛ばしながらどこかにたどり着いてしまったのか。

僕の眼鏡以降の松也私めちゃくちゃ好きだな。積極的に介入してるわけじゃないけど、電話で何をどう言えば彼がどう動くか分かっててコントロールしてる感じに見えた。
取り調べ後、公園で彼に胸ぐら掴まれてもまったく視線を外さない表情崩さないのが強い。

取調室で、脅して非難して恨みごと言って色仕掛け泣き落とし。
レイって呼んでほしいってわかってるから呼ばなかった彼が、説得のために名前を連呼するのが浅ましくていつも好き。留置所のキスを早々に止める私が冒頭の彼のリフレインで、立場が逆転してるのがわかる。

Afraidの廣瀬彼、精神的にも身体的にも閉塞した状態が苦手なんじゃないかと思わせられて、見ていて苦しい。もちろん自業自得ではあるんだけど。

ラストは、バトルの決着と関係の変容。
私は愛ゆえというよりいつも彼がやっていたゲームの延長という温度感だけど、彼は私とその関係が不可逆に変わってしまったことを思い知った哀しみを感じた。
そこの感情のずれがとてつもなく好き。

階段あがっていく彼が美しい、永遠のものにしたい。


@ウインクあいち

思えば前楽まで来ていて、ノーガードのときにこそやられる説をまた立証してしまった。

彼はかなり「友達が多い人気者」に見えたな。ニーチェの誤読を語る姿が堂々ときらきらしてて、この彼はけっこう本気で信じ込んでるんだって思った。
最後の「俺がなりたいのは~」につながる印象で、こんなことになってなければ、正義かどうかは怪しいけど勝率のすごいカリスマ的な弁護士になってた気がする。

松也私も落ち着いていて、後半彼の脅しにも全く押されないので、頭脳バトルの色が強いように感じた。
護送車で真実を聞かされてどんどん憔悴していく廣瀬彼が美しい。♪君を認めようで哀しそうに笑うんだな。やっぱり私のことが好きだったとは思えないんだけど、私の"愛"を変質させた哀しさはあるのかな。

何で相手のこと好きなのかは分からないペアだけど、3ペアの中でいちばんべそべそに泣いてるのが松也私なので、好きなもんは好きということなんだろうな。
彼からの気持ちが得られないからなお執着してしまったのはあるかなあ。他2組はともすればふたりで生きる道が見つかったかもしれないので。

彼の方も恋慕じゃないかもしれないけど、毎回♪こんなに君を求めてるのに〜で顔歪めて微かに笑うので、少なくとも私に求められることは彼にとって特別だったんだとは思う。

 

スリルミーは四季くらいカテコの止めどころがわからない。
3回目くらいでハグというかお互い横抱きみたいな、松也がぎゅっとくっつく。そのあと正面からハグ、直前で止まって顔寄せてキスする?しない??をやってちゃんとハグ。
今年の彼たちは役抜けが早いっぽく、切り替えられるタイプのカテコ多かった。


@配信

収録はおそらく自分の初見より前の東京序盤なんだけど、そう思えないくらい彼の感情が見えるので、やっぱり客側の状態で見るたびに味が変わるタイプのペアな気がする。
私は前半から実のところ余裕があるのが垣間見えるし、逆に彼は苦しそうで可哀想。

スリルミー(曲)の間ずっと余裕がなさそうで、見ていて苦しくなる。廣瀬彼は私に求められている事実が好ましいので見せつけるようにジャケット脱ぐんだけど、それと同時に私含めた彼にまとわりつく全てに首を絞められてるみたいな切迫感がある。

♪そして僕の目を見てのとき、指で目ガッってやる松也私が強い。あんなのやってたの初めて気づいた。あんなやつが言いなりの弱気おどおどなわけないだろうよ廣瀬彼。

計画で止めようとしてるときの松也私が本当に心配してる顔してて、少なくともあの時点ではちゃんと止めたかったんだろうなと思った。

スポーツカー、ちょっと自分の世界に耽ってる間に逃げられそうになって♪僕たちともだちで物理的に捕まえてて怖い。

公園での喧嘩でめちゃくちゃ落ち着いてる私、戻れない道でぼろぼろ泣いている私、取調室で菩薩みたいな顔してる私、見れば見るほど好きだった。本当に彼のこと好きで、止められなくて、裏切られて、"勝負"に出たんだろうなと思った。

廣瀬彼、父親に顧みられず、ともすればもう少し家庭環境が悪いように感じるので、自分個人を求めてくる私をどこか拠り所にしているし、突然いなくなるのも「他の奴はこんな面倒なことしない」も試し行動で私の執着を引き出してるんじゃないかと思った。

まったくの脳内設定だけど、途中から廣瀬彼は父親から虐待を受けていたと思って見ていた。
しつけと称して狭くて暗い部屋に閉じ込められたことがあって、閉所恐怖症の節がある。弟はただ愛されていたという気持ちだけで、強さで言ったら弟へのコンプレックスより父そのものへの感情の方が強い。

閉所恐怖症の印象は確実にAfraidのマイムの上手さに起因するものだと思うけど、特定のこのシーンがというより、あんなに見目麗しくて体でかくて強そうなのに、ずっと瞳が揺れていて不安定なところがつらくて引き込まれる彼でした。

 

 

■達成私×公輝彼
役者的にもいちばん楽しみにしていたペア。
自分の観劇の間が空いたのもあって、最初と最後で全く物語が違うように見えた。


@シアターウエス
すごく見たいタイプのスリルミーだった。過去最高レベルに会話が成立している。
達成私は本当に彼のことが好きで、公輝彼もちょっと悪癖はあるけど明るい人気者で、普通にちゃんとカップルだったんじゃないかなと思わせるふたりだった。
これまでにもカップル路線はいたけど、もっとヘルシーでステディなカップル観でこの作品って成り立つんだって驚きがあった。

達成私ずっと本当に恋をしている、恋人を見る顔してる。もっと怖い系に振ると思ってたけど、シンプルで筋が通っていてすごく好きだった。

公輝彼は、冒頭しばらく持ち前の善良さがにじんでいて、彼にしてはまともすぎないかと思ってたけど、空き巣くらいから表情がゆがんできて、普通の大学生が道を外すっていうルートを見た。父へのコンプレックスが強くて、直前に父親か弟がらみの嫌なことがあって、むしゃくしゃしてるとこに私と口論になって積み重なって一線を踏み越えてしまった感じ。

脅迫状も嘘の証言も留置所もちゃんと私の発言を受けて会話をしている彼で、お互いにちゃんと「放火はしない」とか「今は本当に嫌だ」とか止められていればあるいは……と思ってしまった。

死にたくない、元々めちゃくちゃ期待してたけど、期待以上に超良かった。良かったし♪怖いんだって聞いた途端に寝たふりやめてニコォって笑った達成私が本当に怖い。

でも裏切られてなければ、達成私はふたりの人生のためになんとかしたと思う。その「なんとか」が彼の望むものかは微妙なところだけど。

このふたりは身長差がほぼないのも良かった。でかいのにおどおど……きゅるる……ってしてる達成私。

カテコで徐々に役が抜けていく達成とすぱっと元に戻る公輝くんの差も良い。

やっぱり公輝くんのフラットで間をコントロールするお芝居が好きだなあ。映像忙しいのは承知の上で、今後もいろいろ舞台出てほしい。


@ウインクあいち
ずいぶんパワーバランスが変わっていた。達成私がえらい怖くなっている。

公輝彼は、事件の前後で変わっていくというより、明るくて付き合いの良い人が破壊衝動に乗っ取られると暴走する感じに見えた。
計画のときのスイッチの入りっぷりがすごい。♪別の誰かを、の「てめえが止めるからこんなことになるんだぞ」みたいな感情をにじませる言い方。
超人のラスト、東京でも興奮で息が上がってたのが印象的だったけど、それを通り越して声出して笑っていた。

戻れない道の♪信じ~て~た、達成私は目見開いて微笑みながら歌ってて、この人にとっては「いつまでもふたり 永遠の時間」が至上なんだなと思った。

取調室で♪命尽きるまで~を同じ顔で笑ってるの見ながら、このとき彼も「死ぬまで契約守る」って言っちゃってるんだって今日初めて気づいた。
なんなら、この達成私はそれを言わせるために自分にすがらせたのではとまで思った。

Afraid、彼が独白し始めたときは目見開くだけだったけど、最後絶叫してるの聞きながらすごく邪悪な顔で笑っていた。そのあと53歳の窓の下に移動するときも同じ表情のままで、立ち上がるとめちゃくちゃでかいので、うずくまる彼を取り込もうとする悪魔に見えた。

 

■松岡私×山崎彼

@サンケイホールブリーゼ

21年のチケット消えて配信でしか見れなかったので、劇場で見るの初めて。

相変わらず速度の緩急がすさまじくて、キラキラを感じるピアノとすごく合ってる気がした。

21年はもう少し刹那的な関係の印象だったけど、今年めちゃくちゃ幼馴染。頭の良さを隠さない私で力関係が冒頭から私 > 彼だし、彼も恐怖政治を敷くタイプじゃなくて、若者の愚かさで走ってる感じ。

あの速度で進みながら、芝居がすごい細かい。弟へのコンプレックスとか「分かっててつついてる」のがわかる。

"超人"の彼の仮面が崩れてひっくり返るのが定石のお話と思うけど、この彼はずっと何かやるたびに私がフォローというか尻拭いしてきたのではと思わされる。意外と今までいないタイプでは。
こんなにふたりの関係が変わらないまま迎えるエンドが新鮮で面白かった。

前回「○○に似てる」とか「誰それっぽい」とか感じたところがなくなって完全に独自路線で素晴らしかったんだけど、それはそれとしておさまらないカテコの対応が成河すぎて良かった(三方に手向けて胸のところで小さく手合わせる、前屈せんばかりのお辞儀)

 

 

2017年版以降しか見ていないし、初見時はそこまで考えて見てないから昔からかもしれないんだけど、スリルミー(曲)における私の加害性の観点って前回のまりお私以降強くなってるのかな。柿彼も福士彼もあんまり感情が表出するタイプじゃなかったから余計にかな。

物語がひっくり返る意外性の松柿と、周りがなんと言おうとふたりにとっては愛のにろまり、初演ペア2組が再演しながら、別路線の成福が生まれたり、また新たに違うバランスのペアが生まれてくるの、演劇作品としての強度がすごいなと思う。