みなも泳ぐ水鳥も

観劇と他の趣味

2023「ART」

2020年中止になった中でいちばん未練があった作品が再演!心ゆくまで堪能して、3年前のわたしが救われました。

会話の大洪水を浴びて、おじさん3人に胸が締め付けられる。

見ながら戯曲買って読んだときの記憶がよみがえってきたんだけど、イヴァンを洋ちゃんが演じるの、あまりにもあまりにもだよ!

 

外から見てるとやっぱり起点はマルクだと思うけど、誰かに合わせてちょっと過剰に言っちゃったりいらんこと言って歯車が噛み合わなくなったり全然別の原因で気分が落ちてるときにトゲのある言葉拾って全部嫌になっちゃったりするよね、っていう人間関係のあるあるが詰まってて切なかった。
あそこまでつっかかられたら私なら距離置いちゃうかもしれないけど、それこそ人間関係なんて本人が良ければ良いわけで、3人ともこれでよかったんだろうな。

3人が綺麗なトライアングルではなく、社会的地位のあるふたりと仲介主義の年下ひとりってところが、役者を通すとまた良い。2人で揉めててイヴァンを取り合う形になる段階も、本当に可愛くて好きなんだろうけどあくまでも「俺らふたりとイヴァン」なんだろうなって感じた。

 

しかしまあ大泉洋の台詞が聞き取りやすすぎる。あの早口でとめどなく5分喋り続けて、まだ似たようなシーンが後半に1〜2回あるっていう。スゴ技なだけではなくて、3人の中での彼の立ち位置とか2人への気持ちとか感情のぐらつきとか全部飛んでくる。
最後に戻ってきてから2対1になって、フルテンションでまくしたてるイヴァンさんの自分のこれまでの話に胸が締め付けられて笑ってられなかった。洋ちゃんのああいう台詞回しが本当に好き。
ふらふらしてる自覚はあって、そのままでいられるなら大好きな友達の近くで愉快なピエロでいたかった、けどそうもいかないだろ。生活を保証してくれるわけじゃない、やりたいこと辞めて生活を取ったらつまんない男に成り下がったって言われて、もうなんなんだよ!!どうすればいいんだよ!!!っていうの、毎回胸がぎゅぅっとなる。

争いごとが苦手で近くに怒ってる人がいたら笑わせたくなる性格、年上のメンバーと長年の関係を築いている歴史を彷彿とさせて、つい重ねてしまう。

イライラと爪噛んだり、ムキーって腕ばたばたさせたり、全部嫌になってソファでぐでーんってしたりする姿を目の前で見届けた。長い足に映える細身パンツにオレンジの靴下、左右色違いのサスペンダーがcute. あのサスペンダー本当に可愛い。

 

会話が回りだすとすごいスピードで進んでいくのが本当に長年の友人3人の口喧嘩そのものでなんかすごい良かった。最後言いたいこと言い切って、オリーブの静寂のあとでセルジュがあの判断に至ったのがなんとなくしっくりきた。

ただ最後のセルジュのモノローグ、あれは消せることを分かった上での提案だったということなのかな。そりゃ500万だしというのもあるけど、あれもこれも取り返しのつかない問題ではないっていう感じもして、じんわりくる。

カテコ、3人で肩組んだり、洋ちゃんがお手振りしたり投げキッスしたり、コヒさんがイッセーさんの肩に手かけて電車でハケていったりでso cuteだった。


なかなか舞台の頻度自体高くないけど、当て書きでない作品から取れる栄養もすさまじかったので、翻訳劇もまたやってほしいなあ。今回は当て書きかと思うくらいぴったりだったけども。

私は色彩は感じられないけど、アントリオスは好きだったな。漆喰塗りの壁みたいで綺麗。

 

全部見終わってから戯曲読み直したけど、ほとんど戯曲通りだったのに、初めて読んだときと全然印象が違って驚いた。文字で読むと陰険に喧嘩してるだけなのに、芝居と演出でこんなにコミカルにも切なくもなるんだなあとか当たり前のことを改めて実感。