みなも泳ぐ水鳥も

観劇と他の趣味

2021「マタハリ」

関係性と矢印のいいとこ取りして煮詰めたみたいな作品。ラストが映像的な幕切れですごく好き。

国や軍人のメンツとやらで簡単に人は壊され葬られるけど、それを主導しているように見える将校や大佐の肩にはまた何万人の命がかかってるんだよね、どうしたらええねん、戦争はしてはいけないというお話でもあった。

 

マタの、最後のアンナとのシーンからラストの表情までが大好き。
柚希マタの最後のアンナとのシーンはもう幻想の中に生きてるんだと思ったけど、ちゃぴマタは分かってて最期まで明るくいたいように感じた。

 

和樹ラドゥーは知識や経歴に限らず賢くて、行動力統率力があって優れた軍人なんだろうな。
そして妻も地位も女も欲しいものは自分の力で手に入れてきたんだろうな、と思わせる切れ味。

そして、あまりの気持ち悪さに騒然とさせた万里生ラドゥー。
きっと堅いけど職務を全うするいい上司だっただろうに、とち狂い始めたくらいから充血した涙目でマタに迫ったりアルマンにキレたりしてて、あまりの様子の変化に混乱する諜報局職員の気持ちになっちゃった。

 

楽屋挨拶で手にキスしようとして、香りに惹かれてついみたいな感じで、2回しか会ってない人の手の匂いを嗅ぐ万里生ラドゥー。
2度目の楽屋訪問時の「私が信用に足る人間だと……」の話し方は誠実な男なので、スイッチが切り替わるのはアルマンと会ったあとの覚醒ソングかな。

和樹ラドゥーはその気になればそういう場を用意させることもできるしやらないだけって感じしたけど、まりおラドゥーが求めてるんはそういうことではない。

「二人の男」♪雨の音にも~の部分、和樹ラドゥーは煽りっぽくて、まりおラドゥーは完全に自分の世界に入っちゃってる感じ。
顔めっちゃ寄せてとろんとした目でアルマンの顔撫でるまりおラドゥー。
とんアルマンとは身長差があるのでそれほど近づけないけど、りょんりょんだと同じくらいだから顔近すぎてほぼキスしてた。


和樹ラドゥーはソファーでマタに迫るとこよりも、振り払われたあと絡みつくように抱きついてるところが目に毒。

妻に迫ることで誤魔化そうとするまりおラドゥーも見たかった気がするけど、その造形は出てこなさそうだな。
政略結婚とはいえある程度は大切にして良き夫をやっていて、体の関係で押し切ることは思いつきもしない感じ。
しかし、女の影など一切なかった夫が最近入れ上げてると噂のダンサーが夜突然訪ねてきて、大きい声でなんか叫んで終わったと思ったらガウン脱いでサスペンダー下ろしてたらウイスキーくらいかけるよね。


最後撃たれてからのラドゥーの衝撃混乱絶望を見ると、同情はできないけど可哀想だなと思ってしまう。
起きて撃たれたのが自分じゃない、自分が部下を撃ったことに気づいて混乱しながら様子伺って、声かけようとしたところに「愛してる」って聞こえて、取り返しのつかないことをしたことと自分が立ち入る隙が一切ないことを思い知りふらふら上がっていく。

しかし裁判のシーンで、一切信じていないことを笑顔に包んで朗々と語り民衆を煽動する様を見ると、いつかパレードのドーシーやってほしいな~と思う。

 

対和樹ラドゥーの東アルマン、できるだけ冷静に返答しようと努めている感じがとても好き。さほど興奮せずに渡された宿泊記録を静かに破るのかっこいい。
煽っておちょくってるようにも見えるかずきラドゥーとあくまでもしらばっくれようとするとんアルマン。とはいえ絶対バレてんのにそこで嘘ついてもいいことないよね。

対万里生ラドゥーのりょんアルマンは受け取った宿泊記録を胸にぽんぽんってやって見ずに答えるのね。かなり好戦的。
とんアルマンは街灯の陰で煙草吸って待ってるけど、りょんアルマンは騒動のかなり近くで地面にお絵描きして待ってて、可愛かった。

 

バレエの心得がありすぎるドイツ将校。2幕冒頭のダンスシーンめちゃくちゃかっこいい。
ベルリンへの電車でマタと隣り合った、うたた寝から目覚めて「ん、なんか見たことあるけど……んなわけないか」の人好き。
東洋の宝石の人、1人目がサイン受けてる間不服そうな顔して周りの人に「お前も行けよ」「大丈夫だよ」って励まされてて可愛かった。

 

「英雄であれ」すごくかっこよくて好きな曲だけど、あの曲がかっこいいのは戦意高揚ソングだからなんだよな。

 

東京楽カテコ、「人生でこんなに気持ち悪いって言われたの初めてなんですけど」って言ってる万里生くんにバカウケしてるちゃぴちゃんがso cuteだった。

カテコで幕降り始めてみんながお手振りに移行してもぺっこり90度お辞儀を続ける和樹ラドゥー好き。

刈谷公演のカテコ再登場、まりおくんがハイタッチの構えで待ってたらりょんりょんがグーでタッチ。
嬉しそうな顔でしばらくじゃんけんしようとするまりおくん。
カテコ5回くらいあって、最後挨拶した柚希さんの背中ぽんぽんってするまりおさん。
にこにこして幕と一緒にしゃがみながら手振ってるまりおさん……。cute......

 

ラドゥーがマタに執着しなかった世界線を考えてたんだけど、命令に背いたスパイと報告を怠った諜報員は仕事を続けられず、遅かれ早かれドイツにスパイだとバレて、暗号が総理の耳に入って逮捕・処刑を命じられると思うので、結局ラドゥーの恋愛感情が生んだのは家庭内不和と最後に彼に残る罪の意識だけなんだよな。
そう思うと自分の嫉妬心で部下を葬ったヒールではなくて抗えない時代の流れに飲まれたひとりであるし、私情の有無に関わらず部下の命を握ってる上官のひとりなんだよなあ。
きちんと仕事してたアルマンを嫉妬で転属させたとか、夫の裏切りを娘から聞いた総理が見せしめに処刑させたとかであれば彼の影響もあるんだけど、哀しいくらいただ彼の感情だけがあった。
事情を知らない兵士から見たら、戦時下の命の軽さ自体は問題であれ、臆病だから処刑された者と同じく職務を放棄して捜査対象者と恋に落ちた諜報員が裁判に乱入して命を落とした話なんだよね。

ラドゥーがコントロールできた分岐点ってマタにスパイを打診したことと過去に同じ傷を抱えたアルマンをマタの調査にあてたことくらいなのでは。

 

フランツの「寛容で善意の名君と呼ばれたい」を思い出して胸が苦しくなった。
かたや実在の名君だし似てるわけじゃないけど、責任を負うことのままならなさはラドゥーとフランツが重なるところがある。