みなも泳ぐ水鳥も

観劇と他の趣味

2022「ダディロングレッグズ」

10周年記念公演に燦然と輝いた萌音ジルーシャ。

日本版公演は同年代のふたりが年の差恋愛をしているところに美があると思っていたので見るまで正直複雑だったんだけど、これはこれで素晴らしい!とっても良かった!!

どんどん深みが増す芳雄ジャーヴィスとともに、今見られて良かった。

 

@シアター1010

萌音ちゃんが超ジルーシャ。舞台だと健気でかわいそ可愛い役の印象が強かったんだけど、ウィットに富んで意志も敬愛の念も強くて自立心のあるジルーシャだった。

最初こそ幼い雰囲気のもねちとがっつり大人のジャーヴィスなのでおっとなったけど、あのふたりは対面芝居になると可愛い、坊っちゃまがとにかく可愛くなる。最後のシーン、自立した大人のジルーシャにしゅん……としてごにょごにょ謝って言い訳してる坊っちゃまがめちゃくちゃ可愛かった。

煮え湯までの丁々発止のやり取りとか最後のシーンとか、さすが相手役経験厚いだけあって、間が完璧で最高だった。手紙のくすっとなる言い回しとかが新鮮かつ懐かしさも感じる。

ロックウィロー譲渡の「素晴らしい話だと思いません?」は、ジルーシャはただただすごい話だなあと思ってるけど、ジャーヴィスの含んだような読み方に譲渡当時にもいろいろ思うところがあったんだろうなと感じさせる。


チャリティーただただすごい。自分のできることをやってきたけど、それに伴う構造的な問題が自分の嘘とともに降り掛かってきて、自嘲を含んだ笑顔で苦しさを噛みしめる声と表情に胸が詰まる。

だからこそ、本が売れた知らせと返済の申し出を受けたときの嬉しさが強くて、泣き出しそうで親指の付け根を噛んでるジャーヴィスがもう本当に愛おしい。

 

見るたびにこちらも理解が深まっていて、社会主義のくだりでぐっときてしまう。全体を通してのフェミニズムも、世代をまたぐ階層構造も、踏み込んで具体的な話が出てきてこの物語と切り離されずに語られるところにとても意義を感じる。し、もはや後退すら感じる情勢にいろいろ考えてしまう。

あとジェーンエアね。元々の台詞に演者の現実がついてきた。パンフのジョンの挨拶もウケてしまった。また1年もしないうちに一緒になるよ。


椅子からみょーんって足伸ばしたり、机に足引っかけるようなお行儀悪い足なが姿勢の他に、机に座って椅子に足乗せてたりトランクの上で体育座りしてるような膝を抱え込む姿勢が多くて、可愛らしさ少年っぽさを感じた。

同年代の真綾さんに対するよりもちょっとだけ戯画的な可愛い振る舞いが増えてたような気がする。途中から坊っちゃま可愛いフィルターが暴走してたから実際のところは分からないけど。

 

一応千秋楽だったのでご挨拶あり。
「この作品はお客さんが入ることで分かることがある」「この劇場で初ジルーシャなので実家です」「昔亀有に住んでたので北千住は憧れの都会ですね」「皆さん健康に生きていかれてください これは明日海さんのパクリです」などなど。

あと規制退場のアナウンスの方の名調子をいたく気に入っていた。

「今日も同じ方ですか?落語とかやってたような雰囲気で……」ってベタ褒めしていて、もねちにまたハードルあげてぇって言われても、いやいやプレッシャーとか大丈夫だと思うって謎の信頼感。確かに絶賛に違わぬ素敵なお声でした。

退場時エスコート、1回目は普通に芳雄さんが手を引いて、2回目はもねちに笑顔で手を差し出されて取ったもののその場にぐっと留まってさらに引っ張られて退場、最後は競うように階段駆けのぼって芳雄さんの勝ち!仲良く手繋いで退場されました。

 

@シアタードラマシティ
チャリティーがすごい。そんな悲しそうに笑わないでよ……。年を重ねたからこその、慈善家として人生を生きてきたからこその、ままならない悲しみなんだろうな。


もねちは気丈に振る舞ってるけどつらい、でも負けてられないみたいなお芝居がすこぶる良いし、生意気にへへんって笑うみたいなところも可愛い。


坊っちゃまは前回と同じように初めから面白い男なんだけど、心が動き始めてからが表情豊かでさらに可愛い。手紙を読んでるときの表情が優しくて、面白がったり同情したり驚いたり本当に魅力的。
「他の子のように」ジルーシャの気持ちに寄り添いながら周りと合わせられずに生きてきた自分を重ねているように感じた。知識として知っていた名作たちが、ジルーシャの手紙で改めて近い存在としてあらわれるのが素敵。

母を亡くしてペンドルトンでも馴染めず、"愛"なんて言葉だけだと思って生きてきたジャーヴィスに送られた初めての「愛を込めて」。不憫なくらい動揺して、そこから4年近くたくさんのことを感じて考えていた彼が、チャリティーで「幻か夢」って思おうとしてるのがつらい。

2020年版では「他の子たちとは」が恋の始まりだと思って見てたんだけど、今回はそれより前からかなり心を寄せているように見えた。

カテコのエスコートバトル2回目、勧められて出口側にいるもねちが歩き出しながら後ろ手で犬呼ぶみたいにひらひらって手招きして、芳雄さんも戸惑いながら手取ってゆるっと退場してったの可愛かった。

 

@配信

劇場空間で没入するのとは違う気づきがあったり細かいところに注目できたりするので、配信もありがたいですね。


「ミスター女の子嫌い」は初演ペアの聴いただけで涙出る溶け合うようなハーモニーも好きだし、もねーしゃのお芝居の先にある歌唱も好き。あだ名を真剣に考えてたり最後の宛名のところの悪戯っぽい表情がとても好き。

この曲とか「他の子のように」とかってリズムとか音楽的に若干引っかかりを感じる部分があるんだけど、そこがクセになって好き。「他の子のように」のジャーヴィスの上ハモが美しすぎる。


「知らなかった」改めて聴くとジュリアの報告→ペンドルトン家への嫌味と続いたあとなので、本当に長い手紙なんだよね。だから読んでて遅刻するのね。

 

2幕頭、モダンウーマン然としたちょっと高慢な顔で出てきて「何者かになれそうよ2年生」で笑って表情を崩すの好き。

もねちだと存在が手紙に登場してからしばらくジルーシャってジミーのこと普通に好きそうじゃない?4年生以降は「一緒の旅行にまとめたそうです」とか途中から坊ちゃまのことばっかり手紙に書いとるやろがいとか気づく余地ありそうだけど、嫉妬の対象として刷り込まれるのには十分な好意を感じた。

3年目夏のジルーシャvsジャーヴィー&ダディの争い、ふたりが同一人物だから良かったものの、本当に慈善家の老紳士だったら若者の痴話喧嘩に巻き込まれてるのかわいそうだった(ない話)。

 

チャリティー、歌前から今にも泣きそうな顔で、それを抑えこもうとして笑うジャーヴィス。信じた愛=初めてもらった「愛を込めて」を否定することで振り切ろうとする表情が辛い。

プロポーズ後に自分のことを書かれているであろう手紙を意を決して開く→読んで理解する→ジルーシャに手紙書くことを決意するジャーヴィスがものすごく好き。


ラスト、♪何度も言いかけた〜「いつ!!」であとずさる坊っちゃま可愛い可愛い。逆ギレの勢いがすごいしジルーシャも力強く打ち返すの、よしもねっぽくて好き。

 

 

今回のペアがすっごく良かったのと同時に、オリジナルペアもあきらめきれないので、また改めてやっていただきたい。素晴らしい作品なので、持続可能な再演のためにも、新ジャーヴィスも生まれると良いなと思っているよ。

あと配信のためにがっつりカメラ入れて映像作ったのだから、Blu-rayで売ってください。