みなも泳ぐ水鳥も

観劇と他の趣味

2021年見たものまとめ(3月)

マリー・アントワネット@梅芸メインホール
悪くなる現実と、そこに接続するような作品(イリュジョ、パレード)を立て続けに見て考えている。

例えばとある陰謀論はばかげていると判断しても、逆のベクトルの薄めたものを信じてる可能性がないとは言えないし、だからと言って何もしないことが正しいわけでもなく、学んで調べて考えて自分が正しいと思うものを選ぶしかないのかなあ。
正しかったかどうかはその都度その時でしか判断できない。

 

フェルセンはとにかく高貴だった。
その正しさ故に手を掴みそこね続けた印象で寂しくて切ない。
真剣に訴えてても「現実とはあなたよ」って言われるときゅるんってなっちゃうの、劇中で見ても可愛いが過ぎた。

 

オルレアン公が好みドンピシャだった……。りおさん好き。
野心の歌が超かっこいい。
最後まで負け顔せずに笑ったままマルグリットのこと一瞥して引きずられていく結末込みで好きだった。

 

史実全く知らないんだけど、レオナールとローズがテナ夫妻っぽくて好きだった。
本筋とやや離れたところで自分の人生を優先して上手く立ち回ってるキャラがいると安心する。

 

上山エベールは、進む道によってはもっとまっとうな扇動者になれたんじゃないかなと思った。
道を違ったのは、オルレアンを選んだからかマリー憎しが強い貴族と一緒にいすぎたからか。最後まであんたはもう!ってオカンの気持ちになった。

 

イリュジョでルドルフモデルのキャラが「皇帝を裏切り国家転覆を目論む男」みたいな描かれ方してたときも思ったけど、何を中心に描くかによって悪って変わるよね。
やり方はだめだけど財政破綻させた国王にとって代わるというのはひとつの正義だし。
それはそれとしてリオルレアンは色悪だったけど……。

 

マルグリットとフェルセン、好き かどうかは微妙だけど、親切にしてくれた彼が命を賭して守るのは私じゃなくてあの人なところが伝統の少女漫画っぽくて好き。
まりフェルは誰にでも一定の礼儀をもって接してる説得力が強いし、昆ちゃんの強くて弱い感じもあるので他のペアだとどうだったか見てみたかった。

 

遠い稲妻ずっと単独で曲だけ聴いてて、冒頭の「おとぎの国」って現実を見ないマリーの精神世界のことだと思ってたけど、まじで平和な楽園(プチ・トリアノン)のことだったの驚いた。

 

キンキーブーツWE版
最初も最後も曲始まった途端に泣いた。
日本版は比較的細身なチャーリー&ローラだったけど、がっちりなふたりもかっこよくて好き。

ドンの絵に描いたような「有害な男らしさ」が解けたあとに、理解者として振る舞ってたチャーリーが暴発するの何回見ても辛い。
あそこの展開で、あまりにもすんなり許されるのが気になってたんだけど、改めて見て私は周りを傷つけた人にある程度の制裁を受けてほしいと思ってたのかもなと思い至ってちょっと落ち込んだ。
あの世界では、昔から知ってる先代の息子がやる気になったあまり空回ったことを受け止めて報いたいと判断した。ローラはローラで自分の世界を広げた彼と晴れ舞台に行くことを選んだという話で、全てにおいてあれが正解ではないし逆に全てが怒られて痛い目を見るべきでもないんだよな。


WE版のドンが渋めでしゅっとしたお兄さんで正直めちゃくちゃかっこよかった。
春馬ローラと勝矢ドンは経歴知らなきゃローラの身を案じるくらいの体格差あるけど、WE版のふたりはまあそもそも五分五分なのでは。だから前後の台詞のニュアンス変わってるんだろうけど。


あんまり海外ミュージカル見る機会ない生活だけど、改めて気付くこともあって面白かった。

 

聖地X(YouTube配信)

人は何によって存在するのかの話。

配信されてる3作品の中で、いちばんライトで見やすくて好きだった。


浜田さん、日常と異なる何かに接続している説得力がすごい。
滋の仕事のできる胡散臭いコンサル仕草も、滋'のダメな人たらしもキュンがすごいね……。 滋''の明らかに抜け落ちてる振る舞いがめちゃくちゃ怖い。

逆に安井氏の何が起こっても絶対にこちら側の地に根差している人だって安心感もすごい。

電話の視点が入れ替わるところ好きだった。映像はぼわんぼわんって効果入ってたけど、劇場で見てたら??ってなりそう。

 

単純に見目と声がものすごく好きで、非現実な存在感のあるお芝居が好きで、それを実現するための身体の使い方がやばいので好きだけど、俳優個人を知ってしまうと観劇経験の何かを損なってしまう気がする劇団だな。
絶対にパーソナリティを掘り下げないまま、年齢も経歴も私生活も知らないまま見ていたい。

太陽(配信)
あまりに今の話だったし、いつの話でもあるんだろう。
ウイルスというより支配層と被差別者の話。


結や金田や鉄彦の選択が正しかったのかは判断できない。

見方によっては自分はどちらでもあって、まだ考えてもどうあるべきか分からない。
言っていることがどれだけ妥当でも、「僕らにはない素晴らしいものを持っている」「君の弱さは君の問題だ」はやっぱり持つ者の発言で、持っていない現実がねじれると叔父みたいなことが起きるのはまさにこの現実で辛い。

「そんなことは持ってるから言えることだ(だからそちら側に行きたい)」という鉄彦の発言に対する回答が結の転換後の姿なのかな。
変化を目の当たりにして、得る代わりに失うよりもそのままでいることを選んだってことか。

とはいえ現代に生きる人間としては、どうしても海外や国内の今の政治的分断と重ねてしまって、「強くなる必要がある」を否定もできない。
転換組でも自分の差別意識に自覚的だったり、新世代が友好を結べるのであれば、暗い未来だけではないと思いたい。

 

森繁の提案と最後の鉄彦の選択は、ベイジルタウンのラストで描かれた「いたいようにいられる権利」も連想したな。
どちらが優れているではなく、どちらもそのまま生活できる世界が作れるのであればそれは本当に解決かもしれない。

 

劇団公演における、物語を具現化するための軸を担うスペシャルファクターの存在、好きにならざるを得ない。

 

‪金輪町コレクション(配信)

■甲プログラム‬
‪・箱詰め男
不謹慎コメディかと‬思いきやじわ〜っと嫌な感じになっていく。
閉所恐怖症にとっては自分の意思で体を動かせない、環境を変えられない描写がじわじわとキツい。
浜田さんの声の感情度がそれこそデジタル的に変わっていってすごい。

・業火
怖いよ〜、人間の怖いのだめなんだよ。
大窪さん怖い、入り込む怪異。

・コソ泥
可愛いお話、バランスに助けられた。
絶対黒沢に引っ張られているけど、伊坂幸太郎作品みたいだなと思った。
安井さんってイキウメだと限りなく善の現実の側に位置しているよね。

平雅がクリティカルヒット。衣装メイクもだけど喋り方が良すぎる。
浜田さん、ああいうネジ外れてる系の役も似合うな。


■乙プログラム
・輪廻TM
思考実験みたいで好き。

・ゴッドセーブザクイーン
現実の中の異界の存在が好きなので、ここまででいちばん好きだった。
ノリが軽いのが良い。つながりも綺麗。
最後まで見てタイトルにおぉ〜ってなる。

・許さない
怖いけど怖すぎず。
怒りは反響して増幅して拡散されるってことは往々にしてあるよね。

・賽の河原
宗教の教えそのままって感じ、不勉強でどれか分からないけど……。
そりゃ理解してる分鬼の方がつらいよな。

 

■丙プログラム
客席にふたりくらい声の通るゲラがいてめちゃくちゃ笑い声入る。

・コント
シンプルにコント。浜田さんのキョトン顔すごい神経逆撫でして面白い。
コント終わった後の顔が「義務」でやらされてる顔で良かった。

・弁明
コレクションの説明みたいな立ち位置。素顔風で喋るのうまいなあ。

・落語
綺麗なお話。それこそ星新一的な。

・賽の河原
鬼が町内の持ち回りでけっこう大変っていう事前のインタビューと作中の鬼の苦労が重なる。宗教であり、まさしく人生観だなあ。

拍子木が町の祭り感を盛り立てている。