みなも泳ぐ水鳥も

観劇と他の趣味

2019年 エリザベート

2019年エリザベートが終演しました。

楽しくて濃厚な夏だった……。

 

エリザベートは、自分で見たいと思って行った初めてのミュージカルで、特別思い入れが強い作品で。ただ初見からずっとライブ音源を音楽として聴きすぎた結果、楽曲と出演者はめちゃくちゃ好きだけど、どういうお話なのかいまいちわかってないみたいな人間だったので、今回は物語として解釈を深めたいというのが目標だった。

 

もともと芳雄さんが見たくて行った舞台だったというのもあり、ずっとなんとなく「シシィとトートの恋が成就するまでの話」という認識だったんだけど、今回でエリザベート皇后の人生を「死の帝王」という存在を用いてルキーニが語り直した物語なのかなと思った。

 

特に好きだった人たちの話。

 

芳雄トート。とにかくすごかった。

場を支配する圧倒的な存在感。かっこいいし美しいんだけど、それと同時に怖くて気持ち悪いと思った。歌声、表情、仕草の端々に異界を感じた。

このシーンのここがこうだった!と具体的なことを全く説明できないんだけど、これこそ劇場でしか見られないものだと思った。

公演も終わりに近づいた8月、「最後のダンス」で初めてショーストップというものを体験した。これが演劇的にいいことなのかはよくわからんけど、本当に圧倒的な時間だった。

今回の公演で改めて、歌を通して、もしくは通してなくても、この人が表現するお芝居の世界をこれからも見ていきたいです。

 

 

万里生フランツ。今回の公演でわたしはこのフランツにボコボコにやられてまっさかさまにおちました。

 今まで「あなたがそばにいれば」は新婚ラブラブソングだと思って聴いてたんだけど、冒頭の「世界中旅する なにものにも妨げられず」にアハハッ!て笑い、「自由に生きてゆくのよ」で真剣な顔になるフランツを見て、これは根本的にスタートが違うふたりの曲なんだなと気づいた。自由を求めて生きているシシィと、生まれながらに国と家を守る使命を背負っているフランツ。それでも、お互いいつか分かり合えるはずと思って結婚生活はスタートしてしまうんですよね…。

 

「最後のダンス」後、おびえて抱きつくシシィを笑顔で抱きしめた後に異変を感じて心配そうな顔でシシィをのぞき込むフランツ、好き。

 

このあと、結婚翌日に助けを求められたときも、あなたは敵だって言われたときも、皇后室にすがって最後通告を突きつけられたときも、意見がすれ違ってシシィから反発され拒絶されるたびに、フランツは驚いてすごく傷ついた顔をするんですよ。

フランツとしては、結婚前に個人の自由は制限されると伝えているし、彼にとってはそれが生まれてからずっと当たり前で、その範囲の中でずっとエリザベートのことを愛していて。エリザベートという作品は女性の自由の話でもあるので、現代の感覚ではフランツは"いい夫"ではないと思うんだけど、生まれながらに帝国を率いる責任を負っている皇帝のこの言動を責めることはとてもできないなあと思った。ただ見ているものが違うだけだからこそ、絶望的にふたりの間の溝の深さを感じてしまう。

 

ふたりの心がすれ違ったままウィーンを出てしまうし、ルドルフ死後、泣き崩れる妻を支えようとするも、エリザベートはもはやフランツのことが見えていない。「夜のボート」でやっと向き合ったふたりが見れるんだけど、どうしたって同じ方向を向くことはできないだろうなあというのを実感してしまう。

 

すさまじかったのは「悪夢」ですよ。すれ違い続けてここまで来てしまったのに、エリザベートは自分のものとうそぶくトート閣下にすさまじい剣幕で怒り叫ぶ。刃物を受け取ったルキーニに殺さんばかりの勢いでつかみかかって、吹っ飛ばされてもすがりつき、エリザベートが刺されるその瞬間まで妻に向かって必死に手を伸ばすの…。

 

今まで正直、トートに勝てなかった男くらいの認識だった。けど今回で、ルドルフがエリザベートの鏡合わせてあるように、フランツはエリザベートの魂の片割れで、進む道は違ってしまっても一緒に生きるべき存在だったと思いたい。

 

 

成河ルキーニ。ほんとにすごかった。とにかく情報量が多い。

とにかく舞台に出てる間ずっと何かをやってるんだけど、特に印象的だったのが皇族や貴族たち "えらそうな奴ら" に向ける表情。謁見の間で直訴しに来た母親に「却下!」というフランツに何かを吠え、領土をどうのこうの言う軍人に冷たい目を向ける。いがみ合うゾフィーとマックスの間で唾を吐く。「二度と過ちはおかさないよ」と言うフランツを鼻で笑う。

狂言回しに徹している間は基本的にテンション高いんだけど、ふとした瞬間に中のルキーニが見えている感じ。

 

あとトートに対しての感情が捉えきれなかった。デブレツィンでハンガリーの面々を隠したトートを見て、めちゃくちゃ笑ってたんですよ。悪夢でトートとフランツがバチバチに争っている間は、舞台に腰かけて手たたいて笑っていた。

何となくトートの従順なしもべではなく、"死の愛"に対しても笑wwwみたいな感情があるのかなと思ったり。そうかと思えば刃物受け取ったあとはものすごくたどたどしくなって、胸を張って歩き、泣きそうな弱々しい声で「Un grande amore」と残していなくなった。

狂言回しの間は、権力のある者を憎み軽蔑して、死の帝王が何かに翻弄されていることを嘲笑していて、でも刃物を受け取り現実に戻った瞬間に弱い部分が表面にあらわれてしまったのかなとか。

 

その他、好きだったところ。

・お見合いで大混乱になってるときにそっとマカロン食べてる

・皇后に似合う/似合わないをやってるときに目を左右にきょろきょろ

・「ミルク」の「ミルク風呂に入ってる!皇后! そ~う」の言い方

 ミルクの煽り力がすごかった。感情をかき乱す抑揚。

・「キッチュ」のこちら側の手拍子を受けての表情

・マダムヴォルフでロミ?のお尻なでたあとに指なめる

・家出したシシィが近くを通り過ぎたときにフランツに「ほらほら!いるよ!」

・真ん中セットの階段からポン!って飛び降りる

・放浪中シシィに鏡を見せるときにくるくる回す

・ルドルフの棺で写真撮ったあとにシシィの叫び声と同じトーンで「キャー!!!」がめちゃくちゃ腹立つ

・「オーストリー皇帝・フルルルルァァァンツヨーゼフ!!!」

 

 そんなテンション高く煽ってくる狂言回しのルキーニが真剣な表情を見せたのが、精神病院。患者を刺激しヴィンティッシュ嬢をけしかけながら、すごく真剣な表情でエリザベートを見ていたのが気になっていたけどよくわかっていなくて、成河さんのメルマガでちょっとだけ腹落ちした。

皇后と無政府主義者という真逆の立場ではあるけど、誰にも寄りかかれない孤独を抱えて生きているという点でふたりは似ているんですね。だからほかの皇族には見せない表情をエリザベートに向ける。

そして最後に安らげる場所にたどり着けたシシィと、死んでから100年間も同じような時間を過ごすことになったルキーニなのかな。

 

 

ストーリーがわかってから見たからこそ気づくこともあり、本当に楽しい時間を過ごすことができました。

あと、ダブルキャストだからこそ、演じ方の違いをきっかけに考えが深まることもあって、これは誰がなんと言おうと今回実感した面白さのひとつでした。

とはいえ、あれだけのスタープレイヤーを複数人集めて組み合わせは無限大な状態で、十分な稽古時間が取れないというのはわたしのような素人でも容易に理解できる問題なので、解決のために今わたしが愛している構造の一部がなくなるならそれは仕方ないというのが、今の考えです。

 

とにかく3か月間の公演、本当にありがとうございました。

 

来年の再演、キャストも公演期間も全く不明だけど、気になっていたけど行けなかったという友人を連れていければいいなと思っています。