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髑髏城の七人 花鳥風月 感想

1年間楽しかった〜〜‼︎

 

髑髏城の七人 season花・鳥・風・月がすべて無事に千秋楽を迎えました。

season極として修羅天魔が本日初日ですが、構造の違う髑髏城ということで、ここで花鳥風月の感想をまとめます。

ネタバレ満載なので、お気を付けください。

 

私はWOWOWでやっていたアオドクロで髑髏城を好きになりました。

なので(なので?)、天蘭への執着が強いです。

初演、1997再演は未視聴です。

 

まず、過去作と今回で変わっていたところ。

風を除いて、口説きにそのseasonごとに象徴的な”嘘”が含まれていました。

今までは、秀吉への怒りと殿への思慕を刺激することで、蘭兵衛を天魔王の側に引き込んでましたが、今回はきっかけとして、天魔王がある嘘をつく。

これが嘘だったと判明するのが蘭兵衛の最期なので、悲壮感が増幅されてとてもつらい。でもそれが好き。

 

もう一つ、無界の襲撃が蘭兵衛発信になっていました。

過去作は、天魔王が「断ち切らなければならない縁があるだろう」とけしかけて無界を襲わせてましたが、今回は蘭兵衛が「秀吉よりも先につぶすべき男がいる」と言って徳川を襲いに無界へ行く。

自分が作った居場所を、文字通り自分の意志で壊すので、襲撃シーンの悲しさが倍増します。でもそれが好き。

 

あと主観ですが、風を除いて口移しの濃度が薄くなってる気がしました。夢見酒の説明がないseasonもあり、割とさらっと済ませていた印象。

まあ映像と舞台の差かもしれませんが、これが意図的なものなら上の2点の変更点と合わせて、蘭兵衛がより主体的に天魔王の側に堕ちたってことなのかなと思いました。

南蛮渡来の薬に惑わされたのではなく、消えない殿への思慕によって、自ら闇に向かってしまった。

私は、捨天蘭のどろどろした感情のやりとりがとても好きなので、この変更はすごくぐっときました。

風は一人二役なので、ちょっと方針が違いますが、これはこれでものすごくでかい爆弾が落とされたので、とてもやばかった。

 

以下、seasonごとの感想です。

今回のはどれも1〜2回の観劇なので細かいところ間違ってるかもしれませんが、お許しください。

 

【season花】

ストレートプレイのベーシックな二人二役バージョン。

 

特筆すべきは、天魔王と蘭兵衛の上下関係。

元々一人二役だと、天魔王が上の立場だったと思うんです。

キャスト的に、捨ノ介と天魔王をやる役者さん(花時点では古田さんと九代目松本幸四郎)が年齢上だし、作品世界的にも殿と顔がそっくりの影武者と小姓では立場に差がある。

 

それがワカドクロで同等の三つ巴になり、そして花ドクロ!

天魔王は背が低く、本能寺の変で負った怪我で足を引きずって歩いてる。かたや、蘭兵衛はでかい!強い!ライビュで横に座ったお姉さんが「あの蘭兵衛は誰にも負けんやろ」って言ってて笑ったけど、まじで今までの儚いイメージを覆すガタイの良い蘭兵衛です。

年齢も蘭兵衛の方が上で、2人のときは天が「兄者ぁ〜」って呼ぶ。

 

でもそんな小さくて若い天魔王だからこそ、残虐性が際立つ。

成河さんの高音ボイスが好きで!新感線にぴったりだなぁと思いました。狂気が滲む高音。

 

歴代の天魔王の中では、たぶんいちばん小物のキャラクター。でもだからこそ、人を騙しても自分のために人が死んでも、自分が生き延びればそれでいいっていう天魔王の言動に説得力があった。

 

花の嘘は、天魔王の足の怪我。自分は殿の最期を看取った。それで逃げ遅れて足に怪我を負った、と説明して蘭兵衛を頼るんですが、最期のシーンで華麗に段差から飛び降りて蘭兵衛に斬りかかる。

このときのひらっと飛び降りる成河天魔の軽やかさが好き。

 

捨ノ介は、一見明るいけど心の中に何かがモヤモヤ澱が溜まっているみたいな小栗旬本人の特性が、良い感じに作用していた。緩やかに死に近づくしんどさがあった。

あと今回全シーズンを通して、全キャストいちばんしっくりきたのが沙霧で、その中でも清野菜名はひとつの正解って感じがしました。

まあ個人的にはもっと清野菜名と成河さんが物理的に戦っているところが見たかったのだけど、花天は足怪我してる設定だったし、沙霧が強すぎたら話始まらんので…笑

 

【season鳥】

鳥はステアラまで行きました。

そして次の日からローチケとにらめっこを続け、気づけば1週間後にまたステアラにいました。

これはもう一度劇場で見なければと思った、マイベスト髑髏城!

 

早乙女太一森山未來の人間離れした殺陣に心を奪われたのもありますが、なによりも天魔王と蘭兵衛の関係性の書き込みがめちゃくちゃ多くて、とっても好き。

 

まず蘭兵衛。メンツが同じなのもあり、ワカのちょっと尖った感じの蘭兵衛を想像していました。

そしたら、べろべろに酔っ払った蘭兵衛がふらふら酔拳のような殺陣で登場!いやー、好きですね。めちゃくちゃかっこいい。下手側から上手の袖まで、蘭兵衛の投げた槍が飛んでいく。

鳥の蘭兵衛は優しくて度量が広くて、兵庫少吉シーンでみんなと一緒にこける余裕のあるユニークな蘭兵衛。

でもそんな優しくて頼れる蘭兵衛だからこそ、殿と天下をとるという過去の夢に自ら手を伸ばしてしまった悲しさが際立っていて、辛い…悲しい…。でもそこが好き!!

 

天魔王は、ずーーーっとふざけてる。五右衛門ロック川平慈英みたいな英語を使ってたり、自分が話していないときは周りの手下にちょっかいかけたり。どこまでが森山未來のアドリブで、どこからが演出なのかわからないくらいずっとふざけてるんですが、この緩急がシームレスに続く感じが、天魔王の底知れなさを感じさせて、めちゃくちゃ怖かった。

 

で、天魔王と蘭兵衛の関係性。過去作には天魔王の初登場シーンに「人の男が天になるには棒があと2本必要だ」みたいな台詞があるんですが、鳥はこの台詞がなくなっています。

捨ノ介を自分と同じ格の人間だと考えていないんだと思います。捨ノ介はもともと眼中になく、蘭兵衛をこちらに引き込むことしか考えていない。

 

一番好きなのが口説きの内容。

 

殿はお前に生きろと言い、私に死ねと言った。私に死んで蘇れと。己の意思を継ぐ天魔の御霊として。そういって、私の手を握った。今まさに天下を掴まんとしたその手で。

 

 この侵略は殿自らの意志であると”死の直前の言葉”を蘭兵衛に伝え、それを殿が愛したお前と成し遂げたいと誘惑する。

天魔王歌唱パートの歌詞に、「私の中の殿が、お前とひとつになりたいと言っている」みたいな言葉があり、直接的ですごい。

 

そんな殿の言葉によって、殿への想いが刺激されてしまい天魔王の側に堕ちてしまう。

このふたりの無界襲撃シーンがもうこの世のものとは思えないくらいかっこいい!このシーンの難点は、ふたりが離れて戦ってるので、目が足りないことですね。

 

で、鳥の嘘はこの「己の意思を継げ」という殿の言葉。

天魔王が逃げるつもりだと話した後に、本当の殿の言葉が明かされます。

  

殿はなくなるその時まで、お前のことを気にかけていた。この手を掴み、こういった。「天下のことは忘れろ。織田のことも忘れろ。お前の好きに生きろ。そう蘭丸に伝えろ。」と。私のことは何一つ言わずにな。 

 

蘭兵衛は、殿が望んでいたように自分の人生を生きていたのに、天魔王の言葉にだまされ、自らの手でそれを壊してしまった。

特に今回の蘭兵衛は、1幕の太夫や無界の人たちへの話し方が優しくて、本当に結構幸せに暮らしてたんじゃないかと思うんです。だからこそ、最期の絶望がすさまじい。

 

天魔王にとっては、自分が心酔していた最強の武将の最期の言葉が、「天下など忘れて自由に生きよ」だった。しかもそれは、自分に向けられたものではなくて、愛した小姓に向けた言葉。

これを戦火の中で目の当たりにしたら、自分の中に理想の殿を作っちゃうのもちょっと分かる気がするんですよね…。

 

蘭兵衛が最期を迎え、捨ノ介との直接対決。

劇場で見てていちばんびくっとしたのがここです。

過去の髑髏城を見たことがある人にとって、斬鎧剣の仕掛けで勝つのは既定路線というか、まあ分かってることだと思うんです。

でそんな気持ちで、斬鎧剣が鎧にヒビを入れるのを見ていて、捨ノ介が2枚目の刃を引き抜いたら、天がそれを止めた⁉︎天魔王が2枚刃構造を見抜いて、あえなく斬鎧剣は終了…。

これもレベルが違う捨と天の表現ですかね。

 

どう終わんねんと思いました。

結果的には、無敵の鎧には一箇所だけ穴がありました。

鳥信長は、「自分が民を忘れ思い上がったら、お前が私を仕留めてくれ」と地の男・捨ノ介に頼み、足の裏の防御を薄くしてあった。そこを突いて、天魔王に勝利。

 

思い上がったら止めろ、と部下に伝え、死の間際には天下を忘れて自分の人生を生きろと小姓の心配をする。鳥信長、ちょっと良い人すぎません?

忠誠心と野心の行き場を失った天魔王が暴走するのも、ちょっとだけ分かるな。

今まで象徴的な立ち位置でしかなかった殿の、人間性が感じられたseasonでした。

 

次、捨ノ介・沙霧の感想。

「浮世の義理も、昔の縁も、三途の川に捨ノ介」というのが捨ノ介の有名な台詞ですが、どちらも最初から全然捨ててないのが、鳥の捨ノ介です。

最初から天魔王殺す気まんまん。

 

そんなキャラクターに合わせて、女好き設定がなくなってて個人的には好きでした。

沙霧も守られる小柄な女の子、というよりは自立した女性って感じ。清水葉月さんのスタイルと声が良い。*1

 

夢見酒で惑わされた捨ノ介が覚めていく場面、徐々に逆手に持ち変わっていくのぞくぞくしました。

 

ただ、天魔王と蘭兵衛の関係性に振っていたからか、他バージョンほど捨ノ介と沙霧が関係を築いていく部分に時間が割かれてなかったかなと思います。まあこれは天蘭に思い入れが強すぎる私の主観です。

恋愛感情よりも窮地を乗り切った同志って感じで、私は好きでした。

 

私はショーアップされた新感線が好きなので、その面でも鳥ドクロはめちゃくちゃ楽しかったです。

 

最後、余談ですが、あまりに好きだったので、戯曲を購入したんですね。

あとがきに、今回の脚本制作の過程が説明されていました。

阿部サダヲで今までと違う捨ノ介を作りたい。そのために天魔王のキャラも少し変更したそうです。それについて、以下のような記述がありました。

  

地に潜む草のものである捨ノ介など最初から眼中になく、蘭兵衛しか見ていない男。 

 

完っ全に公式と解釈が一致いたしました。

 

普段あまり戯曲を買わないので、こういうテーマで、こういう意図で書いてるっていう話が聞けると、また見方が変わって面白い。

 

 

本当は、修羅天魔が始まるまでに花鳥風月の感想書き切りたかったんですけど、まったく間に合わない、というか初日が始まるので、風月は後日。

*1:この声、どこかで聞いたことあるなと思ったら、小林賢太郎制作アニメ「カラフル忍者いろまき」の女の子ですね。かわいい。